「安全資産の円」の正体

日経新聞他、経済金融系ニュースでよく見る「安全資産の円」について。

大きな政治経済金融関連のイベントが生じた際、世界や日本の株式市場、ひいては為替市場も大きく変動しますが、
この為替変動で円高になる場合によく使われる「理由付け」として「安全資産の円に買いが入った」という表現がなんだか当たり前のように書かれています。
以下、直近の記事を引用。

3日の外国為替市場で円相場が急騰した。対ドル相場は一時1ドル=104円台と、昨年3月下旬以来約9カ月ぶりの円高水準を付けた。早朝のオセアニア市場では米アップルの業績下方修正などの悪材料をきっかけにリスク回避の円買いが膨らんだ

上記はリスク回避の円買いですが、日経記事における文脈はほぼ同じ。
他にも「相対的にリスクの低い円」などと表現されますが、これって実は正しい表現ではありません。

プレイヤーを分類するところから始める

「安全資産の円」の正体は、為替市場に参加するプレイヤーと、
そのプレイヤーがどのように投資をしているかを整理すれば見えてきます。

今回の議論における市場の投資家分類

・海外投資家
・国内投資家

各投資家はどのように投資をしているか

シンプルに言えば、お金を出して有価証券や為替等の運用資産を手に入れて値上がり益や運用益を取っているだけです。
つまり、国内機関投資家であれば、例えば米ドル建資産に投資をする場合には
円資金をもとにドルを調達して、そのドルをもって資産を取得するわけです。
逆に海外投資家が日本に投資をする際も、自国通貨やドル、ユーロ等の主要通貨をもとに
円を調達し、その円をもって日本の資産を取得します。

そんなことはわかってるわ!と聞こえてきますね。把握するべきは彼らのリスクヘッジの方法です。
特にプロである海外投資家や国内機関投資家においては、
自国外の資産を取得した場合に「為替ヘッジ」を実施しています。
例えば、国内機関投資家が米ドル建資産を取得する場合、円資金をもとにドルを調達するだけでなく、
為替の影響を抑えるために機関投資家毎に定められた割合で別途ドルを売って円を買います。
こうすることで、仮に円高となった場合でも、ドル建資産の目減りを抑えることができるわけです。

ただ、この為替ヘッジは常に100%のカバー率(1000億ドル相当の資産に対してすべてをカバーする円買いのヘッジ)はしません。
正確には運用益追求のために投資家は為替ヘッジしたくありません。
為替ヘッジは日米金利差を失うだけでなく、
ヘッジに伴いドル売りで調達するドルのコストを負担しなければならないため、
平常時にはヘッジ比率を小さくしておきたいという状態なのです。

また、内外金利差に着目して円を借りて高金利国の金融資産などで運用し、
運用益に加えて金利スワップも獲得しようとする取引としてキャリー取引と呼ばれる行為もあります。

相場急変時に各投資家がどのように対応するか

上記の状態で相場急変時に各投資家がどのように対応するかがわかればゴールです。
仮に相場急変を景気後退懸念による米国市場の大幅下落と想定します。
この場合、日経平均株価も基本的には米国市場に合わせて大幅な下落が予想されます。
その時、投資家はどのように動くでしょうか。

海外投資家

投資対象円資産の下落を見越して為替市場でヘッジ解消の円買い実施。
→円高

国内機関投資家

為替ヘッジを平常状態であまり張っていない場合、
市況悪化による円高というメインシナリオを想定し、外貨資産の為替ヘッジを厚くするためにドル売り円買い実施。
→円高

国内個人投資家

メインシナリオを想定した損切りおよび関連のパニック的な追随の損切り、強制ロスカット。

結局「安全資産の円って」

上記の通り、別に海外投資家にとって円が信頼されているというわけではなく、
市況がリスクオフに動いたときに海外投資家も国内投資家も
(若干意図は違えど)ヘッジに係るポジションの動きが起きることによって円高になるという構図です。

もちろん「安全資産の円」が完全に間違っているわけではなく、対外純資産が黒字であることといった円の信頼に関する要素も無くはないですが、
本当にそれがメインシナリオなら北朝鮮情勢の悪化で大幅な円高になりますかという話です。
円のファンダメンタル/属性と、市場でリスクオフ時に動く方向(円高)だけをみて、安全資産だから買われてて円高!なんておかしな話なんです。

この他にも、割と日経はしれっとおかしなこと書いてたりするので、今後も折を見て紹介していきます。

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