ご存知の通り、昨今不動産投資用の融資が絞られています。
このことに関して今後の投資戦略を考察したいのですが、そもそも融資が絞られたきっかけを整理しておきたく、記事を書いています。
近年不動産投資の過熱感が指摘されて久しいですが、そのような中で金融機関の融資姿勢を大きく変えた決定打となったのは「かぼちゃの馬車事件」でしょう。
ゴミ物件にサブリースでお化粧していたかぼちゃの馬車
スマートデイズが展開していたシェアハウス「かぼちゃの馬車」は2014年9月頃に本格稼働しました。
「かぼちゃの馬車」が扱う物件は、入居者を女性に限定しているのが大きな特徴。
数平米の居室と小さな共用スペースを提供し、共用スペースは6部屋の居室に対しシャワー室1つなど、とても十分な設備とはいえません。
それでも多くの投資家を惹きつけたのが「サブリース」というスキームです。
要するに、かぼちゃの馬車への入居者有無に関わらず、一定額をかぼちゃの馬車売主のスマートデイズが投資家に入金するという仕組み。
例えば、満室想定で家賃60万円が入るアパートをサブリース賃料40万円で契約した場合、
オーナーは物件が満室でも40万円、入居者がいなくても40万円受け取れるという契約。
スマートデイズは他社の投資用不動産に比べてこのサブリース賃料を高めに設定し、
見た目のリターンを高く見せます。
これに反応した投資家が購入を検討。購入の際はスマートデイズとかぼちゃの馬車スキームで提携しているスルガ銀行が融資審査を実施します。
不正な融資審査
スルガ銀行が融資をするにあたり、当然「審査」があります。
審査では投資家の年収、勤務先、年齢等の属性や、物件自体の担保評価が勘案され、審査基準をクリアした場合に融資が実行されます。
この審査の過程で、現在の融資厳格化の引き金となる行為が行われていました。「融資審査書類の改ざん黙認」です。
具体的には、スマートデイズはかぼちゃの馬車購入希望の投資家の融資を通すために以下のような不正行為を行なっていましたが、
スルガ銀行はほぼ内容を知っておきながら黙認し融資を通していました。
(※)売買契約書の2重作成とは
売買契約書を2重に作成するとは、スマートデイズが「銀行向けに物件価格1億円の契約」と「投資家向けに物件価格9千万円の契約」を作成することです。
なぜこのようなことをするのでしょう。
答えはスルガ銀行が「物件価格の9割を上限とする融資」を前提としていたからです。
自己資金の少ない投資家にかぼちゃの馬車を買わせるため、スルガ銀行向けには1億円の物件価格を提示してその9割の9千万円を融資金として引く。
投資家は本来の価格である9千万円を全額スルガ銀行の融資でまかなうことができるわけです。
スマートデイズの破綻
上記のスキームで急拡大したスマートデイズですが、かぼちゃの馬車の「現実」は、肝心の入居者が全くつかない状況でした。
それでもスマートデイズはオーナーに約束したサブリース賃料を支払う必要があります。
つまり上述の例で言うと、オーナーにサブリース賃料40万円で契約している場合、
入居者がいない状態で40万円を支払い続けているということです。
スマートデイズは新規の物件売却で得た収入を既存オーナーへの賃料支払いに充てる「自転車操業」となっていました。
業績が急拡大しているうちはこれで問題ありませんでした。
しかし、かぼちゃの馬車への積極融資をしていたスルガ銀行が2017年1月ごろから融資を絞ったことで、この自転車操業は破綻します。
2018年1月、スマートデイズから不動産のオーナーへのサブリース賃料の支払いが困難になり、その後スマートデイズは経営破綻しました。
負債総額は2018年3月末時点で約60億円で、このうち物件オーナーは約675人、約23億円にのぼっています。
2018年4月には東京地裁に民事再生法の適用を申請したものの棄却され、破産となりました。
スルガ銀行不正の発覚
破綻整理のなかでスマートデイズが上述の改ざんをゲロるわけです。
すると、なぜスルガ銀行はその改ざんを見抜けなかったのか?という話になるわけですが、
被害者ヅラを貫き通せるほど世の中甘くはありませんでした。
スルガ銀行担当行員やその上司が改ざんを黙認する証拠や証言が続々と出てきて、スルガ銀行の不正が明るみになったというわけです。
各金融機関の融資審査厳格化
スルガ銀行の不正を受け、各金融機関は一斉に融資審査を厳格化する方向にかじを切りました。
ここが若干闇ではありますが、平たく言うとスルガ銀行以外の一部金融機関も多少同様の不正をやってたんですよ。
でも、日本の金融機関全てを燃やすわけにはいかない金融庁その他機関と、当事者である金融機関の思いが一致して、
スルガ銀行と極一部の行儀が悪すぎた金融機関を除き、事後的に「色々きれいにすることで」とりあえず事態を落ち着かせているのです。
どうあれ、このようにして融資審査が厳格化されることとなったのです。